私たちがシステムを解析,制御し,また直接観測できない状態量などを推定するには,対象システムの性質を数学的に記述したモデルが必要です.しかし,実社会の複雑な現象の物理的なモデル化は多くの場合,困難に直面します.

そこで本研究では,多様なセンサや少数の実験によって計測・収集されたデータを解析し,現象を表現する統計モデルを構築する技術,または現象の解釈を容易とするためのデータクラスタリングやデータ可視化の技術を開発しています.さらに,これら統計モデルを用いて,実社会の様々な問題にアプローチしています.

具体的には,ヘルスケア・医用デバイスなどのヒューマンシステム,エンタテイメント向けアプリを対象に研究を進めています.本研究室では,開発した技術の早期の社会実装を目指すため,データ解析やアルゴリズム設計のみならず, 臨床データ収集,動物実験,被験者実験,ソフトウェア開発まで一貫して行っています.

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てんかん(Epilepsy)とは,脳細胞のネットワークに起きる異常な神経活動に起因するけいれん,意識障害などの発作を来す疾患あるいは症状です.

平成24年春に,京都市東山区の祇園で起きた自動車暴走により,多数の死傷者が出た痛ましい事故が起きました.この事故の原因として,ドライバのてんかん発作について報道されたことから,2013年法改正でてんかん患者の免許取得に一部制限が設けられました.てんかん患者の運転免許取得は,平成14年改正道路交通法にて条件付きで認められたもので,このように法でてんかん患者の行動の制限は,その流れに逆行するものといえます.

てんかん発作に伴う事故によって,重傷,死亡につながる場合があり,交通事故に限らず,発作に伴う風呂場での溺死や,コンロでの調理中における火傷は数多く報告されています.しかし,患者が数秒前でもてんかん発作の兆候を検知できれば,発作までに身の安全を確保することができ,生活の質(QoL)を改善することができると期待されます.たとえば,運転中であっても発作兆候を検知し車を安全に停車できれば,法で再びてんかん患者の運転免許取得を過剰に制限する必要はありません.

本研究は,大学病院や他大学と共同し,てんかん発作の兆候を監視するシステムの開発を行っています.本研究室では,てんかん患者が装着したウェアラブル心拍センサの情報を解析し,てんかん発作兆候を監視するアルゴリズムを開発しています.さらに,開発したアルゴリズムのAndroidアプリへの実装を行っています.

2014年夏より,東京医科歯科大学および国立精神神経治療研究センタ(NCNP)にて,開発したシステムの臨床実験を行っています.

2017年8月よりAMED先端計測分析技術・機器開発プログラムに採択され,実用化研究のフェーズに移行しました.

【参考文献】
K. Fujiwara, M. Miyajima, T. Yamakawa, E. Abe, Y. Suzuki, Y. Sawada, M. Kano, T. Maehara, K. Ohta, T. Sasai-Sakuma, T. Sasano, M. Matsuura, and E. Matsushima: Epileptic Seizure Prediction Based on Multivariate Statistical Process Control of Heart Rate Variability Features, IEEE Transactions on Biomedical Engineering, 63, 1321/1332(2016)

P.Bhatti:Editors' Choice EpilepsyAdvance warning,Science Translational Medicine,8(323),2016

【受賞】
第49回市村学術賞功績賞(2017)など

【報道など】
NHK産経新聞京都新聞共同通信など

【プレスリリース】
未来の治療・診断につながる「医療機器の技術シーズ発掘」を強化―平成29年度「先端計測分析技術・機器開発プログラム」新規採択課題決定

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居眠り運転の経験があるドライバは運転免許証保有者の約3割にも昇ると言われ,ドライバ死亡事故原因の17.6% が居眠り運転を含む漫然運転によるもので(警察庁平成25 年交通事故統計),居眠り運転による事故は社会的課題のひとつです.本研究では,ウェアラブルセンサを用いてドライバの心身状態を監視し,リアルタイムに眠気を検出し警告を与える技術を開発しました.

具体的には,ドライバの覚醒時の心拍パターンを正常として,正常な心拍パターンからのズレを多変量統計的プロセス管理(MSPC)を用いて監視することで,低覚醒状態を検出することができます.本研究室所有のドライビングシミュレータを用いた被験者実験では,少なくとも居眠り運転による衝突事故発生の30秒前までに,低覚醒状態を検出できました.

本研究は,NTTドコモ,MTTデータMSE,京都大学,熊本大学との共同で実施され,NTTドコモよりhitoe向けサービスとして実用化されています.

【製品情報】
NTTドコモ Business Online

【参考文献】
E. Abe, K. Fujiwara, T. Hiraoka, T. Yamakawa and M. Kano: Development of Drowsiness Detection Method by Integrating Heart Rate Variability Analysis and Multivariate Statistical Process Control, SICE Journal of Control, Measurement, and System Integration, 9, 10/17 (2016)
山川俊貴,藤原幸一,平岡敏洋,阿部恵里花: 特願2014-114093,眠気検出方法及び眠気検出装置

【プレスリリース】
hitoeを活用したドライバー向け眠気検知システムの実証実験を開始

【報道】
産経新聞 1産経新聞 2

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睡眠時無呼吸症候群(sleep apnea syndrome; SAS) とは,睡眠時に呼吸停止または呼吸量が減少する疾患で,昼間の眠気のみならず,様々な生活習慣病を引き起こす重篤な疾患です.本邦には潜在的に200万人以上の患者がいるといわれていますが,自身がSAS に罹患していると自覚することは難しいため,病院で受診している患者は12万人程度に過ぎません.従来のSAS 診断手法である終夜睡眠ポリグラフ検査(polysomnography; PSG) は,限られた施設でしか実施できないため,PSG とSAS 簡易モニタの適切な併用が望ましいとされています.しかし,SAS 簡易モニタの適切な利用には医師の指導・監督が必要で,自身がSASであると自覚せず,病院でSAS を受診しようとしない潜在的なSAS 患者にはSAS スクリーニングの実施が困難となります.

そこで本研究では,心拍変動解析とサポートベクターマシン(support vector machine; SVM)に基づいたSAS スクリーニング手法を開発しました.提案法では,SAS 患者・健常者の睡眠時の心拍データからSVM を用いて無呼吸・正常呼吸識別モデルを構築します.
その結果,提案法とウェアラブル心拍測定デバイスを組み合わせることで,SAS 罹患の可能性を在宅のまま容易にスクリーニンできるようになりました.

したがって,開発した方法は従来手法ではアプローチできなかった潜在的なSAS 患者にSAS罹患をスクリーニングする機会を提供できるため,社会的意義も大きいと思われます.

【参考文献】
C. Nakayama, K. Fujiwara, and et al.: Development of sleep apnea syndrome screening method by using heart rate variability analysis and support vector machine,IEEE EMBC2015, Aug. 25-19, Milan, Italy (2015)
藤原幸一,仲山千佳夫,加納学: 特願2015-101782 ,無呼吸識別システム及びコンピュータプログラム

 

脳卒中とは,一般に脳梗塞,脳出血,くも膜下出血などの脳血管障害の総称で,その治療の成否は時間との勝負です.できるだけ早く治療を開始することは,生存率の向上だけではなく,後遺障害の軽減にもつながります.特に脳梗塞は,発症より4.5時間以内の急性期であれば血栓溶解療法(t-PA治療)によって薬物で血栓を融解させることが可能となります.したがって,脳卒中治療においては,いかに素速くその発症に気がつくことができるかが重要となります.しかしながら,脳卒中の主な症状は意識障害,麻痺などであり,さらに夜間の発症も多いことから,患者本人でも気がついて,救急に通報できるのは困難であるとされます.実際にtPA治療の適応率は10%程度に過ぎません.

そこで本研究では,心拍変動解析を活用することで急性期に脳卒中を検知するシステムの開発を目指します.実際には,脳卒中急性期の臨床データの大量取得は困難であるため,現在はラット中大脳動脈閉塞(MCAO)モデルを用いて,脳梗塞発症部位・体積と心拍変動との関係について生理学的な調査を行っています.


【参考文献】
T. Kodama, K. Kamata, K. Fujiwara, M. Kano, T. Yamakawa, I. Yuki, Y. Murayama: A New Infarction Detection Method Based on Heart Rate Variability in Rat Middle Cerebral Artery Occlusion Model, IEEE EMBC2017, Jul. 10-15, Jeju, Korea (2017)


 

新たなゲーム体験の構築を目指し,本研究室では心拍計測デバイスを搭載したゲームコントローラとコンテンツの開発を行っています.本コントローラによって,プレーヤの心理状態をリアルタイムに推定し,それをゲームの進行などにフィードバックすることで,これまでにないコンテンツを生み出せる可能性があります.

現在,新型コントローラの開発と性能評価実験,コンテンツの開発に取り組んでいます.

【参考文献】
E. Abe,H. Chigira, K. Fujiwara, T. Yamakawa, M. Kano:Development of Photoplethysmogram Sensor-embedded Video Game Controller, IEEE ICCE 2016, Jan. 8-11, Las Vegas (2016)

【受賞】
阿部恵里花(M2):IEEE ICCE 2016・IEEE CE East Japan Chapter Young Scientist Award(2016)

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難治性てんかんの治療法のひとつとして,植込デバイスによって,迷走神経を微弱な電気で刺激を与えることにより,発作を緩和するという迷走神経刺激(VNS)療法があります.しかし,VNSは約半数の患者にしか効果が見られないこと,またその作用機序にも不明な部分があります.本研究は,大学病院と共同し,てんかん患者のVNS植込前後の脳波を比較し,その作用機序の解明やVNS効果を予測する手法の開発を行っています.

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介護現場向けの新規ヘルスケアデバイスの開発を行っていますが,現時点では詳細は未公開です.

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システムを適切に制御したり,または異常を素早く検出するには,一般に重要な変数をリアルタイムで計測する必要があります.

たとえば生産システムでは,生産効率化や不良品流出防止を考えると,製品品質や安全に関わる重要な変数をオンラインで測定することが望まれますが,たとえば化学プロセスの場合,温度や流量はオンラインで測定できる一方,製品組成の分析はクロマトグラフィなどを用いるため,そのリードタイムが大きくコストもかかります.このため,本来は効率的に運転できる場合であっても,保守的な運転をせざるを得ない場合があり,このような変数をオンラインで測定できるようになれば,一層のコスト削減を行える可能性があります.

このようにハードウェアセンサではオンライン測定できない,もしくは測定に多大なコストを要する変数を,オンラインで安価に測定できるようになればその利益は大きく,そこでソフトウェアを用いてセンサを構築することを考えます.つまり,オンライン測定が容易な変数から,測定の困難な変数を推定する統計モデルを構築します.このような統計モデルをソフトセンサと呼び,現在,産業界の様々な場面で用いられています.

しかし,どのような機械・装置であっても経年やメンテナンスによる性能・性質の変化が生じ,それまでに構築したソフトセンサの性能が低下するという問題がありました.本研究では,このように性質か変化するシステムに追従するソフトセンサ設計法を開発し,これを相関型Just-In-Time(CoJIT)モデリングと名付けました.

開発したCoJITモデリングは化学プロセスの実データを用いて検証し,従来法に比べて高い性能を有していることを確認しました.

【参考文献】
K. Fujiwara, M. Kano and S. Hasebe: Soft-Sensor Development using Correlation-Based Just-In-Time modeling, AIChE Journal, 55, 1754/1765 (2009)

藤原幸一, 加納学, 長谷部伸治:相関型Just-In-Timeモデリングによるソフトセンサの設計, 計測自動制御学会論文集, 44, 317/324 (2008)

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大量生産される製品は,カタログスペックは同一でも,必ず機差があります.このような場合,全ての装置に適用可能な統計モデルや制御系を適切に結成することは困難になります.

たとえば,半導体プロセスでは同一の製造装置を並列に稼働させていますが,やはり機差があるため,単一の統計モデルや制御パラメータを全ての装置に適用できるとは限りません.しかし,装置ごとに統計モデルを構築したり,制御パラメータを調整するには大変な手間を要します.

しかし,装置特性に基づいてデータをクラスタリングし,分類された特性ごとでモデルを構築すれば,装置ごとモデルを構築する場合と比較して,大幅に手間を削減することができます.

そこで本研究では,装置特性が装置の測定変数間の相関関係の違いとして表現されることに着目し,相関関係の違いを用いてデータをクラスタリングする手法を開発し,これをNCスペクトラルクラスタリング(NCSC)と呼んでいます.これによって,多数の装置がある場合でも,低コストで統計モデルを導入することが可能となりました.

さらに,NCSCを用いたソフトセンサ設計法や異常検出システムも併せて開発し,化学プロセスのシミュレーションを通じてその性能を確認しています.

【参考文献】
K. Fujiwara, M. Kano and S. Hasebe: Correlation-based Spectral Clustering for Flexible Process Monitoring, Journal of Process Control, 21, 1438/1448 (2011)

K. Fujiwara, M. Kano, and S. Hasebe: Development of Correlation-based Clustering Method and Its Application to Software Sensing, Chemometrics and Intelligent Laboratory Systems, 44, 130/138 (2010)

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ソフトセンサ構築では,一般に入力変数の数を増加させるにつれ,モデル構築用サンプルに対するフィッティング性能は向上します.しかし,出力変数と物理的に関係のない変数まで検量線の入力変数として用いると,未知サンプルに対する予測性能は低下するため,適切に入力変数を選択しなければなりません.しばしば入力変数選択は試行錯誤に頼らざるを得ないため,生産現場には負担の大きな作業でした.よって,ソフトセンサの予測精度改善および設計効率化のため,システマティックな入力変数選択手法の開発が望まれています.

そこで本研究では,NCスペクトラルクラスタリング(NCSC)を用いて変数間の相関関係に従って変数を分類して変数グループを構築し,変数グループごとに入力変数として採用するか判定する変数選択手法が提案し,これをNCSC型変数選択(NCSC-VS)と呼んでいます.

NCSC-VSは化学プロセスにおけるソフトセンサ設計や製薬プロセスでの検量線設計を通じて,従来の変数選択手法より推定精度の高いソフトセンサを構築できることが実証されています.

本手法に興味をお持ちの方は,藤原にコンタクトしてください.MATLABのテストコードの開示を含めて,相談に乗ります.

【参考文献】
K. Fujiwara and M. Kano: Efficient Input Variable Selection for Soft-senor Design based on Nearest Correlation Spectral Clustering and Group Lasso, ISA Transactions, 58, 367/369 (2015)
K. Fujiwara, H. Sawada and M. Kano: Input Variable Selection for PLS Modeling Using Nearest Correlation Spectral Clustering, Chemometrics and Intelligent Laboratory Systems, 118, 109/119 (2012)

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もはや日本は,マスプロダクションだけでは中国やアジア諸国に対して,高い競争力を維持することは困難になっています.現在,産業界はマスプロダクションから,国内でしか生産できない多品種少量生産で機能性,付加価値が高いファインケミカルなどにますますシフトしています.

このような多品種少量生産に向くバッチプロセスに注目が集まっています.バッチプロセスの特徴は,予め設定された操作プロファイルに従ってプロセスが運転されることにあり,品質や歩留りの改善を目的とした操作プロファイルの最適化が,高い競争力を実現するために不可欠な技術となります.

そこで本研究では,ウェーブレット解析を用いて,バッチプロセスの操作プロファイルを最適化し,品質や歩留りの改善を実現する技術を開発しました.開発した方法はJSTの支援の下,国際特許出願もされています.

【参考文献】
藤原幸一, 加納学, 長谷部伸治, 大野弘:ウェーブレット解析を用いたバッチプロセス操作プロファイルの最適化, 計測自動制御学会論文集, 42, 1143/1149 (2006)

加納学, 藤原幸一: WO2007/139088(優先権基礎出願:特願2006-148874), 操作変数決定方法,操作変数決定装置,プログラム及び記録媒体 (JST知的財産委員会第四専門委員会,PCT出願支援S2006-1023)

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